読書感想文:「これで古典がよくわかる」(橋本治/ちくま文庫)2012/01/07

「これで古典がよくわかる」……うん、確かに間違いではない。嘘でもない。「古典」が「よくわかる」のである。
 ただし、そのタイトルで通常期待する「これさえ知っておけば大抵の古典文学は『知ってる』って言えるね!」といううんちく本でも、古典文法早わかりでもないのである。

 では何がわかるかというと、「古典には何が書かれているのか」と「古典を書くのに使われている言語とそのなりたち」だと思います。
 そして古典と言っても書いてある内容は現代文芸書と大して変わりはないということ。
 また、古典の中でお手紙が全て和歌の形を取るのも、「源氏物語」が読みにくいのも、当時書き言葉の形態がまだ完成されていなかったからだということ。

 古典は崇めるものではなく、えらい訳でもなく、馴染めば気楽で楽しいものだということが、沢山の例を挙げて繰り返し説明されていく。その手際の鮮やかさが多分、感性と腕とのなせる技。すごくいい。
 引き合いの出し方が的確で滑らない。そして和歌や文章の表現と歴史的背景との結びつけ方も、あぁそういうことかと飲み込めるようにできている。

 口語から文字の輸入、仮名文字の形成、漢字仮名交じり文ができるまでの理由と展開、それぞれの性質を噛んで含めるように説明された後で「だから漢字仮名交じり文が確立された『徒然草』以降の古典作品は、特に随筆は読みやすいんですよ」と言われると納得します。
 ついでに「何で平安文学が頂点扱いされるかというと、明治期に鎌倉以降の武家支配を否定し、天皇の支配を文化面でも強調したい政治的意図が混ざるからです」と言われるとそれもそうかと頷きながら「じゃぁ読んでみようか『徒然草』とか”大今水増”とか……和歌集もいいかもしんない」とか思えるようになります。学問として修めるんじゃなく単に楽しむだけなら、文法の読み取りが正確じゃなくても別にいいじゃないか、と感じるようになる頃には中〜近世の日本史も興味がわくようになる、これで古典は恐くない!

 で、まぁその後すぐに古典作品を買いに行って手をつけたかというとまだなんですが。
 でも読みたいな、特に和歌はほとんど触ってないだけに面白そうな予感がします。新古今にチャレンジしたい。
 それと「源氏」の書き言葉が完成する前の、ひらがなばかりで句読点はおろか主語述語もはっきりしない、言うなれば「子供の文章」で「近代フランスの心理小説」並みの内容が語られていると聞いて、私「源氏」の難解さと偉大さがはっきりわかりました。そっか……ただの恋愛小説と思うと間違うんだね……。紫式部すげぇ。
 よって「古典がよくわかる」けどテストの点数が取れるようになるかどうかは別の話。でもいい本でした!

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