「どうする家康」:アイドルだからできること2023/02/02

 なんてったってアイドルなのである。
 一般にアイドルの示すものは、若さである。
 まだ役者・歌手・ダンサーその他の専門職に特化しておらず、どれでもなくそれだけにどの挑戦もする。
 技術の足りない分を一生懸命さで補う。そのうち伸びた才能でプロになる。それまでの短い間を楽しむ、そういう存在である。
 そしてまれに、その中でずっと「一生懸命」を売り続けられる人がいる。確かにどれに特化している訳でもないけれど、逆に他の誰かがその人になれるかというとなれない。
 松本潤はその内の一人だと思う。
 そして今回大河ドラマはその希有なベテランアイドルを殿様にいただくことになった。
 それが「どうする家康」である。

 アイドルを主演にするということはどういうことであるか。
 まず浮かび上がるのはマイナス面である。
 アイドルは、前述の通り「一生懸命」を売る存在であり、それは若さであり「未熟」のイメージが先に立つ。
 俳優としてキャリアを積んだ人の方が、技術的に優れている筈だという印象が先行する。
 しかし、松本潤はアイドルとしては歴戦の古参兵なのであることを忘れてはいけない。
 アイドルという言葉でイメージする仕事の全てを、特化することなくまんべんなくキャリアを積んでいる。専業の人と違う経験の広さを持ち、かつ若いというイメージを持ち続けるだけのフィジカルがある。
 新米将校より古参下士官の方が現場では偉い。「星の数よりメンコの数」である。
 昨今実力が無ければ支えられないと言われる1年長期の大型枠を、十分支えられる強靱さは十分想定できるのである。
 一方、アイドルのプラス面を考える。
 未熟、というイメージは、逆に親しみやすさに繋がっている。
 大河は歴史を扱うことで、事前に歴史の勉強がいるとか、学生時代に学科でひどい目にあったので歴史の学習に近づきたくないとか、「こわい」というイメージを持っている人がそれなりにいる。
 勿論実際は大河ドラマといえどもフィクションであり、事前の知識なく見ただけでストーリーがわかるようにできている。
 しかし見てもらわなければわからない。
 こわくないライトなイメージで新規視聴者層を獲得する、そういう作品も作る必要がある。
 これまでも作られてはきたのである。
 華やかなビジュアルや軽やかさを重視した作品。
 トンチキ大河、と後から振り返られる作品はそういう趣旨で作られたものと見て大体間違いがない筈だ。
 それでもトンチキと笑われてしまう作品はリスクが高い。
 若手俳優を使って空振りしてしまうと主演俳優のその後のキャリアを折る。ベテラン俳優に若作りなビジュアルをやらせて滑るのもつらい。
 そこでアイドルである。
 元々役者専業でない分「ちゃんとしている」期待値が低い。
 思い切ったビジュアル重視、スピードと軽さを取り入れるのに向いているのではないか。
 しかも1年の長期大型枠を乗り切る為の「ベテラン」としての力はキャリア相応に持っている。
 ハードルの低い親しみやすさに振り切った大河を作るのに、今松本潤ほど適任な主演がいるだろうか。いやない。という結論を導き出して問題ないと思う。

 ゲームのようだと言われるCGの様子、柘植伊佐夫デザインの華麗な戦装束、桶狭間直後の段階で既に「V6天魔王」の愛称が定着する織田信長のエキセントリックな様子に、「いいぞもっとやれ」という感想を深めています。
 他に誰ができるというんだ、この方向性の大河を。

 かつてのトンチキ大河をトンチキにしてしまったのは、見た目だけでなく中身も現代的にしよう、と現代的な恋愛事情や残酷さのソフト化、倫理的な社会常識を実際の歴史よりも優先したことにあります。
 当時になかった筈のものを絶対扱わない、とすれば言葉は、服飾は、染色は、距離は……と、制限が多すぎてしかも一々に注釈がなくては伝わらない。到底1年間興味を引きつけることはできません。
 かと言って、見た目だけが現代と違うだけで、ありきたりの言葉と筋書きが並んでいるだけでは、何で現代劇ではいけないのかという問いに答えられません。
 違う常識と習慣のある社会の中、起きた事件の間に今の人としての感慨を持てるように物語を構築する。
 それが歴史を扱うドラマの醍醐味でしょうし、長期大型枠でこそ大がかりに光るでしょう。
 近年の織豊期の研究は急速に進み、資料も増え、ドラマの中に今と違う前提を持ち込んでも理解が得られやすい。
 今時の脚本術であの頃トンチキと笑われた内容を作り直し、あの頃取り損ねた視聴者層を取り返しにきたのではないでしょうか。
 見た目は笑ってしまう程わかりやすく漫画的ですが、4話まで見た限り歴史をうまくアレンジして今との違いを解説しつつ、物語の土台を堅実に作っている感じがします。

 題材は大河王道の戦国、三英傑。
 信長と秀吉が壊して潰して平らにしてしまった国を、固めなおして三百年の平穏をもたらした家康。
 戦乱の果て、破壊の限りが尽くされる中を「もういやじゃぁぁぁ」と叫び続けて必死に生き残っていく人の一生は、メジャーの一線で「一生懸命」を売り続ける人が演じるのによく合った主題であるようにも思えます。
 幼さを残す初陣の年頃から人生を終える老境に至るまで、人一人の人生を丸ごと演じる経験の果てに「アイドル」としてしか認識されていない人が、ともすれば見た目の軽さを侮られがちなこの大河と共にどうなるのか、この1年が楽しみです。

コメント

トラックバック