近況2009/11/08

 喉痛いなー。やっぱりヴィックスドロップだけじゃ無理ありますかね……。後で何か薬買って来よ……。
 ついでなのでこの一週間の読書メモ。

「風が強く吹いている」(三浦しをん)
 前に単行本を斜めに立ち読みしたので、面白いのはわかってた。試験までは一応自重しようと思ってたんですけどね、文庫本借りられたのでうきうきと。
 ……映画版見に行ってないけど、原作に比して余り映画の評判がよろしくない理由が何となくわかった気がする。
 もちろん話のクライマックスは文庫で言うと405ページから始まる約250ページに及ぶ箱根駅伝本戦な訳ですが、そこに至るまでの約400ページ分の練習と日常の描写があるからこそ選手十人十様の「箱根」にカタルシスがある訳で、つまりそこのとこ、選手の個性の煮詰め方が雑だったんだなきっと……。
 素人を大量に含む10人こっきりの弱小集団が箱根に挑む話に違いは無いんだけど、それは素人だってやれば出来る的な紋切り型の努力神話の話じゃないんである。
 努力で如何ともし難い残酷なまでの限界はきっちり描かれているし、そもそも箱根を走ると言う動機は、発起人であり監督権コーチ兼マネージャー兼寮監たるハイジさん以外実はそんなに強くない。なので不可能と知りつつどうしてもそこへ出たくて頑張っちゃう10人の話ではありえない。
 だからこれを単に今時風にスマートになったスポ根として扱っちゃったらいかんだろう。
 ただ、ならどう撮ればいいかというとこれは難しい。
 原作で、箱根のソロパートへ入る前の部分は基本的に主人公の走視点である。
 よって走の少しずつ成長して行く様子は丹念に描かれ、一方走以外の登場人物のタイム以外における成長とか苦労や内面、背負った背景が読み取りづらくなってるんですね。
 だからこそハードな特訓の中に息苦しさがないし、何となく波風はありつつも気楽な集団としてのカラーが浮き立っていて、楽しく読めるんですが。
 箱根で初めて、個々のキャラクターの内面と一年の総括が来る。1年間、もしくはそれよりずっと前を振り返っての成長をまとめてどすんと渡される。
 その瞬間、今まで読み進めてきた1年の様子と今渡された総括が、言ってみれば二重写しで読み手の頭に回想される訳で、心にずしんと響く設計です。
(箱根の描写があっさりしている人は、それ以前にきちんとそのキャラに思い入れを持ちうるに十分な描写がどこかに入っていて、メンバー間の描写バランス的にも小説全体、及び箱根の緊迫感を損わないバランスとしても、見事なものである)
 むしろそれまでまったくノーマークだったキャラクターに不意打ちを食らうことなど珍しくない筈である。俺だけじゃないはずだっ……。
 でもこの種明かしと同時にそれまでの情景が思い出されるような効果は文字メディアの特性であって、映像メディアに持ち込むのは難しいよなぁ……。
 今更そんなこと言われても感情移入できない、って言われちゃうもんなぁ。

 また文庫版だと最相葉月の解説がいいのであるね。結局自分で買いました。
 キャラで言うと全員好きといいつつ……ニコチャン先輩(チーム最年長)が……好きです……(いっそ大家さんとか八百勝のおっさんは)(いや好きですけど)。あとはユキですかね……。

「裏庭」(梨木果歩)
 前に友人に勧めてもらったのは「家守綺譚」の方だったろうということを思い出したのは、読み始めて半分以上過ぎてからだった訳で……。ちなみに「前」ってどの位前かと言うと、去年。ごめん。
 いや、面白かったんですけどね。
 児童文学ファンタジー賞受賞作、という肩書きがものすごく納得できる。きちんと読み進めた訳じゃないけどナルニア国とか、アリスだとしたら鏡の国の方かな、とかそういう正しい児童文学、かつ正しいファンタジーの匂いがする。死やグロテスクのイメージは、子供の好む所ですよね。その辺りが品よくギリギリの所で収まっている。倫理観や教訓についても同様、かなぁ。
 その一方で母親の世代についての叙述や異世界の中に現代社会への皮肉を外さないのは、純然たる子供向けと言うよりは「かつての子供」向けの所があって、そこら辺も大人の選考する賞を受賞しうる児童文学かつファンタジー。
 まぁ、色々既視感の在処やモチーフ元へ思いをはせたりするのはこちらが子供でも純粋でもないからですが。そうすると子供の時に読んでたら違うんだろうなぁと言う気がする。
 鏡と巫、橋姫、双子と片子、実在する異界としての外国、現在から赴くことの出来ないことでは紛れも無く異界である過去、当然ながらイメージとしての異界、奥津城の根の国。賢王の狂気。破壊と再生の輪環。
 照美=tell meという言葉遊びと同様に、罪と先行きの暗示と読みうる名前(これは明らかなネタバレになるので伏せますが)は読み過ぎか。いや多分この本全体に行き渡った繊細な気遣いからすると絶対わざとだ。
 裏庭世界の話で字体が変わるのは多分「はてしない物語」と同種の趣向ですね。
 読み取りつつ、あぁこれはこうなるだろうなと思う予測がきちんと嵌るのは快感と同時に妙な薄気味悪さを伴い、予測不能でもないけれど完全に予測できる退屈さはないのは、これはもう作品の実力と言う他ありません。
 面白かったし、間違いなく佳品であるのだけれど、それでも読後の微妙な冷たさはなんなんだろう。まぁそこに熱気を伴わない辺りが美しい銀細工にも似た一種の品格に繋がるのですけどね。
 あ、そうか。若干笑いの要素に欠けるんだ。
 よし次は「家守綺譚」。メモっとこう。

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