未練だ。2012/03/04

 万惣という店がある。
 創業弘化3年。日本で最初にマスクメロンを商ったという逸話を持つ、160余年の歴史を誇る老舗の高級果物店である。
 そこの果物を買ったり頂いたりという機会は滅多にないものの、フルーツパーラーの方には時々お世話になっておりました。日祝休みの本店よりは日曜祝日も開いている銀座松坂屋店がほとんどですが。新丸ビル店も結局行ったことがないんだよなぁ。
 そんな店は聞いたことはないぞという人は、千疋屋のようなもんだと思って頂ければ結構。
 でね。
 数年前、母の癌の快気祝いに一回だけお使い物の発注をして以来、この店は季節毎に商品パンフレットを送ってくれるのですが、先日時期外れの封筒が届きまして。
「休業のお知らせ」
 ………3月24日に閉めるってお知らせを3月1日に送ってよこすなや。
 えーと。要約すると。
 去年の震災を機に、東京都の耐震化施策が新しくなりまして。神田須田町、靖国通りと中央通りの交差点という指定幹線道路に面した本店ビル(旧耐震基準)はそれなりの対応をしなければならないのですが、調べてもらった結果、耐震強化工事などでどうにかできる範囲の話ではなく、かつ素早く建替えできる程の銭がありません。
 ので「果実の販売・フルーツパーラーの営業を全店で休止することを決定した次第であります。」「ながいあいだ、まことにありがとうございました。ここに深く感謝申し上げます。」ってことは……事実上閉めるって意味に捉えていいんですよね。

 むう。
 困った。
 何が困ったって、ならば行かねばなるまい、食うのだ!と思い当たるメニューを考えると、1回で足りないのである。
 パフェでしょー、フルーツサンドでしょー、アボガドとハムのサンドイッチでしょー、それにもう1回位は本店まで行って本店限定メニューのホットケーキを食らうべきよね。
 あと。閉店に向けてのご祝儀として1回位は……マスクメロン………(1万円〜)を買う……といいのかな……。
 遥かな昔、癌を患って1度は良くなった叔父がハイになって買ってくれたこの店のメロンの味が、舌の根に残っているのである。
 そりゃぁ、食べる前には座布団の上に飾って拝んだものだった。
 どの位の代物だったかというと、実のことをいうとそれまでメロンは嫌いだった私が、以後普通のメロンでも「食えんこともないです」へ進化するレベルのものであった訳で。メロンがうまいってこういうことかー!と理解したのです。えぇ。
 コンフィッツという、早い話が果物のシロップ煮も各種あるんですが……あれもまた未練だな……。

 フルーツパーラーはともかく、お使い物の詰め合わせになるとどうも「値段の割に今ひとつ」になりがちな千疋屋と違って、ここの詰め合わせが本当に季節の美味いもんお値段に応じて詰め合わせ、なのは身にしみて知っている。
 前述の、母の快気祝いのときに大変懇切丁寧にきめ細やかな相談にのってもらったのでね。そして取引実績のない相手に「月末締めの掛払い」というおおらかな店だった。株式会社なんだけど事実上個人商店だよね、というのはこの点ではいいことなんだけど。もう少し商売上手でもよかったんじゃないのかと。
 未だに休業の「きゅ」の字も見えない公式ホームページを見ながらなんとなく思うのでありました。
 後何回行けるかなー。